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ボッシュの歴史と想いをディテールに宿した“上質な空間”ができるまで

建築家の窪田茂さんといえば、数多くの商業施設をデザインし、数々の賞を受賞しています。代表作には、皆さんも知っている施設もあることでしょう。今回はその窪田さんと、café 1886 at Boschの建築・内装デザインを窪田さんとともに手がけた植松慶一郎さんにどのようなこだわりを店舗のデザインに詰め込んだのかを伺いました。

29歳で独立、建築家として商業施設の面白さに魅せられて

私たちのcafé 1886 at Boschを、おしゃれで居心地の良い空間に仕上げた窪田建築都市研究所代表・一級建築士の窪田茂さん。建築から商業施設の空間デザイン、プロデュースなど幅広い分野で活躍する、注目の建築家です。

窪田さんの父は大工。子どもの頃から父がつくった建築物を見て育ち、自然と建築に興味を持つようになったそう。

高校在学中は美術やアートが好きで、一時はファッションデザイナーを目指そうと思ったほど。ですが、卒業後の進路を考えたとき、「自分の中で一番しっくりきた」という建築の道に進むことを決めました。

建築の専門学校卒業後、とある設計事務所に就職した窪田さん。そこで主に手がけていたのは、公団マンションや病院、官庁や銀行など。商業的なものはほんの少しの割合でした。

その後、2社で働き、29歳で独立。あてもなかったため、しばらくはまったく仕事がない日々もありました。ところがある日、店舗デザインの仕事が舞い込んできました。

窪田さん「商業の世界って特殊でね、29歳という若さゆえに仕事がくることがあるんです。“若い感性”でつくって欲しいって。最初はそういう仕事を何となく受けていたのだけど、だんだんと商業の面白さを知って、いまに至るというわけです。」

商業の面白さと、建築だからできることが重なり、より面白くなる。そんな案件に挑戦するうちに、窪田さんは建築と商業施設の空間デザインを行う建築家として確固たる地位を確立していったのです。


私たちにとっての“こんなところ”は、プロ目線では“いいところ”

2015年、ボッシュ渋谷本社ビルの1階にカフェ&ショールームを開設することにした私たちは、そんな窪田さんに建築と内装デザインの相談をしました。

当時、いまカフェとショールームがあるスペースは、全体的に色のトーンがグレーで、どことなく冷たい雰囲気の企業エントランス。ちょっとした打ち合わせができるようデスクとイスが置かれ、空間がパーテーションで素っ気なく区切られていました……。

正直「本当にここをカフェにすることは可能なのだろうか…」と不安を感じていました。

(2015年 現在の受付から見た風景)

窪田さんに相談後、彼のスタッフの植松慶一郎さんとさっそく現場に訪れてくれました。なんと、彼らの反応は私たちの予想とまったく正反対で、「ここはいいところですねぇ!」だったのです。

窪田さん「だって、天井は高いし窓は大きい。その窓を開ければ、神社の緑が目に入る。中の広さ的にもロケーション的にもすごくよかったんです。いいカフェさえつくれば、きっとお客さんが入ってくれると思いました。」

せっかくの大きな窓を常にブラインドで閉ざしたままにしていた私たち。その向こうに緑があることなんて、ちっとも気づいていませんでした。

この広いスペースを見た窪田さんたちから「カフェは“過去”、ショールームは“現在と未来”をテーマにしてはどうかと提案していただきました。

窪田さん「130年以上歴史があって、ヨーロッパでは非常にメジャーなブランドであるボッシュを日本でどうやって浸透させていくかを踏まえて考えたとき、歴史、つまり『過去』をテーマにしたらいいんじゃないかと思ったんです。さらに、ものづくりにこだわっているという点を『現在と未来』をテーマにしたショールームで見せれば、対比があって面白いんじゃないかって。」

そして、そのテーマと大まかな設計図を発案者であるボッシュ・ジャパンの下山田を筆頭に、窪田さんと植松さんを含むプロジェクトメンバーとドイツに行き、ボッシュ本社でプレゼンを実施。ドイツ本社からもGOサインを獲得し、プロジェクトは走り出しました。


ボッシュらしさを追求したディテールへのこだわり

プロジェクトメンバーでドイツに行ったのは、プレゼンするためだけではありません。ドイツのボッシュ本社やアーカイブと呼ばれる歴史資料館、カフェ、バーなどを実際に見て、みんなで完成形のイメージを共有するためでした。

カフェ店内に置かれている長机は、アーカイブにある昔のボッシュが運営していた作業場のレプリカにあった作業台からインスパイアされたものです。特に脚にこだわり、万力が付いたようなデザインになっており、見る者の想像力をかきたてます。実際にこの長机は、電動工具を使ったものづくりワークショップなどでも活用されています。

一人で作業するのに便利なハイカウンターの席には、ボッシュの倉庫に眠っていた昔の製品カタログや資料を展示しました。

植松さん「このハイカウンターは、個人的に一番のお気に入りです。エッジ部分など細部までこだわり、ディテールにボッシュらしさを宿せたと思います。」

また、カフェに入るとまず目に入ってくる存在感のあるカウンター。古木を積み重ねたデザインで、カウンターとしてはかなり特殊な作りになっています。

植松さん「普通、カウンターをつくるときって、あんなにずっしりとした迫力があるように設計しません。でも、あの広い空間だと、ある程度迫力がないとチープな印象になってしまう。ボッシュさんから“オーセンティック(本物)”というキーワードをもらっていたのもあって、とにかく本物にこだわってデザインしました。実際、あのカウンターがあるからこそ、空間的な締まりが出ていると思います。」

天井はもともと高かったのですが、いかんせん無機質だったので全部壊し、ショールームとカフェがシンメトリーになるよう、同じ照明器具をつけました。

また、カフェからショールームにつながる床は、過去から現在、未来という時間のつながりを表すため、グラデーションになっています。

植松さん「あのグラデーションをつくるのは大変でした。異素材ですからね。施工屋さんと打ち合わせしてるときに、『タイルに印刷したら』ってポロって言ったら『ちょっとやってみましょう』ってサンプルつくってくれて。で、タイルで試したんですけど、今度は施工上の安全性との兼ね合いも考えないとっていう(笑)。でも、結果的に満足のいくものができました。」

過去があるから現在、未来がある――。こうして、130年以上ものづくりを続けてきたボッシュの歴史と思いが細部に宿るカフェが完成したのです。


人々が集まり続ける空間を創るためには、ディテールの作り込みが最重要

商業施設をつくるにあたり大事なのは、制作側がどれだけその企業のことを理解できたか、そして、企業側と制作側のメンバー全員でどれだけコンセプトを強く共有できたかです。

窪田さん「ボッシュさんの場合、全体のコンセプトがしっかりしていたんですよね。ドイツのカフェみたいなコミュニティにしたいっていう。そのイメージを、実際にドイツにも行って、みんなで共有できたのは大きいと思います。」

「様々な人や企業、地域の集まるコミュニティにしたい」という思いを共有できたからこそ、こだわりが細部に宿ったcafé 1886 at Bosch。その結果、多くの人が訪れ、ゆっくりとくつろげる居心地のいい空間となりました。

植松さん「僕思うんですけど、ディテールって、見るというより感じるものだなって。その空間に入ったときに何となくよくできているなと思うものって、多分ディテールがちゃんとできているんですよ。今回の場合で言うと、ボッシュさんの理念だったり、カフェとショールームのテーマだったりをうまくディテールに宿すことができたと思います。」

窪田さん「ただ、僕らが企画しているときは、もちろん空間としていいものになるって自信を持ってやっているんですけど、実際にお客さんが入るかどうかっていうのは、やっぱりお店ができたあとの雰囲気や接客がすべてなんですよね。誰でも入りやすい雰囲気かどうかとか、企業側の運用次第なんです。で、いま大成功している。それが何よりも嬉しかった。」

植松さん「ボッシュさん、お店を大切に使ってくれてますもんね。フローリングなんて、普通1年経ったら真っ黒になっちゃうんですけどきれい。ちゃんとアドバイスどおり1年に1回メンテナンスしてるんだなって(笑)」

私たちは、窪田さんと植松さんが心を込めて創った空間を、責任を持って運用する必要があると思っています。そしてそれが、結果としてお客さまひとりひとりがくつろげる空間をつくると信じています。

そうして丁寧に日々を積み重ねることで、開店から3年経ったいま、プロジェクトに携わってくれたクリエイターの方々にも喜んでいただけていることは、私たちの大きな誇りとなっています。これらもこのカフェに集まる人々の心に残るような空間を提供してまいります。


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